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Geo Story  

Geo Gastronomy from Italy
イタリアとジオ・ガストロノミー
 
 
 
 
 

 
イタリア料理とイタリアの食文化

イタリア料理と言えば何を思い浮かべるでしょうか?スパゲッティをはじめとするパスタ。安価で美味しい、まさに庶民の味方でイタリア人に最も人気があるとも言われるピッツァ。あるいは昨今、日本で驚くようなブームになった「マリトッツォ」や、今やクラシックな「ティラミス」あるいは「ジェラート」のようなドルチェ(甘味)。そのいずれもが、イタリア国内だけでなく世界各地に広がるイタリアンレストランに足を運べば、ほぼ必ずと言って良いほどにメニューに見られる、まさにイタリア料理の「看板」のような料理です。
 
しかし実際にイタリアで日々の生活を送ってみると、私たちが目の当たりにするのはとてもこれらの「看板」だけでは表現し切れない多種多様な料理の数々です。それは例えば中華料理やフランス料理、あるいは日本料理といった様々な国の料理のレストランが街中で見られるという事ではなく、むしろ明らかに保守的と言って良いくらいに「イタリア料理」ばかりが見られるというのに、その内実は北から南に伸びるイタリア半島の各地域によって、更に言えば数十キロ程度離れた街ごとで、その街や土地の独自の食材や料理が見つけられるという事です。
 
つまりマクロで見れば「イタリア料理」という括りにされてはいても、ミクロで見れば実に多種多様であり、それぞれの土地やそこに生きる人々によって如何様にでも変化するのが「イタリアの食文化」なのです。

文化と自然の交差点

イタリアは古来からヨーロッパ、アジア、アフリカが交差する地中海世界の真ん中にあり、それが結果として異なる文化的背景を持つ人々の交流の舞台となってきた場所として知られています。そのためイタリア半島の南北で著しく食文化も異なり、シチリア島やサルデーニャ島といった島嶼部ではより一層独特の食文化が形成されています。
 
しかしこの地中海という海に囲まれ、更に南北に伸びる半島であるというイタリアの地形的特性は、文化の多様性と同様、あるいはそれ以上に自然の多様性を生み出してきました。北イタリアの主要都市であるミラノやトリノでは雄大なアルプス山脈を背に、山の自然の恵みや寒冷な気候により適した食材(肉、乳製品など)や料理が生み出されてきました。
 
一方で温暖な地中海の恵みをより直接的に受けやすい南イタリアでは、豊富な海鮮食材や、温暖な気候での栽培に適した果樹などから得られる食材(オリーブや柑橘類など)が料理の中心に据えられています。勿論、南北という単純な二分割で全てを説明できる事はなく、北であっても海に面するヴェネツィアやジェノヴァではとびきりの海鮮料理が食べられますし、南であってもより内陸部であれば山間部の放牧や酪農から生まれる肉料理が支配的な地域もあるのです。 

 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 

スローフードと地産地消
郷土料理と家庭料理

そんなイタリアの文化と自然の多様性と地域性がイタリア人自身によって強く自覚されたのが「スローフード」と呼ばれる、この30年で広く普及し定着した現在のイタリア料理とイタリアの食文化の基盤となる考え方です。
 
土地で受け継がれてきた伝統的な食文化や食材そのものの価値の保全を、実際に食材の地産地消と郷土料理の継承という形で実践する。それは食材の生産者や料理人の間のみではなく、街や地域ぐるみで、その土地に生きる人々の間で共有される理念であり、実践です。
 
そこで面白いのは、このような理念と実践がアグリツーリズムに見られるような食や農業をテーマにしたツーリズムを後押しし、マクロな視点から地域社会を活性化させるだけでなく、社会のミクロな構成単位である家庭での食文化、すなわち家庭料理の価値の再評価も生み出しているという事です。
 
つまり料理や食文化はマクロな社会や集団で受け継がれるものの、それは画一的で支配的なものではなく、実際に人々の生活の場である家庭によって独自かつ自由にアレンジされ、より豊かな多様性を育んでいく事になるのです。

そして、ジオ・ガストロノミーへ

そのようなイタリアの料理や食文化がこれからどんな方向に向かっていくのか?私自身は料理人でもなければ、食分野で仕事をする人間でもありませんが、ただこのイタリアという国で食に携わる様々な人に出会ったり、時には取材や撮影をさせていただく中で、多様性と地域性、そして何よりも創造性豊かなイタリアの食の在り方が、現在の地球とそこで生きる私たちを取り巻く、様々な問題や課題に対して示唆に富んだモデルケースを多分に提供できるのではないかと思っています。
 
そしてそれは何よりも「地球の恵みと対話」し、「自然と共生する食の生態系を見直し、地域に根付く郷土ごと食文化のユニークネスを尊重した未来のフードシステムの在り方を考える」というジオ・ガストノミーと高い親和性があり、イタリアの人々にとっても非常に馴染みやすく、更に日本や世界の人々との交流や対話の機会を生み出す新たな理念や実践の形になり得るのではないかと期待しています。 

 
 

映像ディレクター・番組制作コーディネーター
井 谷 直 義 (Naoyoshi Itani)
イタリア・フィレンツェ在住

 
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